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– 傷つくほどに、美しくなれる。-
新刊本分抜粋記事

 

19 years old
「何者にでもなれる、いつからでも。」

 

 

 

そして、2010年3月19日

19歳になっていた私は
3300gの元気な女の子を出産した。

たった一人で留守番をしていた
昼下がりの事だった。

 

 

 

 

 

10時になったばかりの時間
お腹が急に軋み出す。
脈を打つようにどんどん鼓動が加速していく。

息が上がって腰が痛くなる。

気づいた時には
3分おきに陣痛が始まっていて
私は玄関に用意していた
入院バッグを持ってタクシーに飛び乗り

一人病院に向かったのだ。

 

 

 

– 震える手、乾いていく喉。
この後私は
数時間も経たない間に「母親」になる。

 

それがどれほどに覚悟のいることか。

身寄りのいない東京での孤独な出産は
私をさらに奮い立たせていた。

 

 

 

 

– 病院に着くと
分娩室の手前で子宮口が全開になるまで
一人で病室にいた。

 

そこまで高くないはずの天井が
ものすごく高く見えた。
白く果てしなく終わりがない ―

 

急に「このまま一人で
死んでしまうのではないか」という
焦燥感に襲われて
陣痛の痛みすらわからなくなるのだ。

 

 

 

 

「どうして
誰も背中をさすってくれないの。」

当時、病院に家族が駆けつけることはなかった。

 

たった一人での陣痛に耐えたのだ。

 

 

 

 

 

 

– その日の夜。
病院の廊下を行ったり来たり。

 

生まれたばかりの娘を
抱き抱えながら
私はどこまでも続く病院の廊下を
非常灯の明るさを頼りに歩き続けた。

 

 

「私はこの病院を出たら
ただの女の子ではなく、母親になるのよ。

何者にでもなれるわ、いつからでも。

 

 

坂田まこと

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